2018年07月11日

予告された水害 倉敷市真備町 2018/07

 まず、今回の災害の犠牲になられた方々に、慎んで哀悼の意を表したい。
 過去の多くの洪水災害において、適切なハザードマップが作成されていなかった、あるいはきちんと市民に提供されていなかったという問題があった。ところが、今回大きな被害を受けた岡山県倉敷市の真備地区については、大変優れた洪水ハザードマップが作成され、市民にも提供されていた。
 それが、どれだけ優れたものであったかという事実を、下に示す2つの図で見て欲しい。上段は市が作成配布していた「ハザードマップ」で、紫色の部分は「浸水深5メートル」を示している。下段は、今回の洪水災害について国土交通省国土地理院が調査に基づいて作成した7月7日時点の情報による「浸水推定段彩図」で、この2つの図は見事なほど一致しているのである。(それぞれのURLは末尾に記載)
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 この事実と、地域で実際に起きてしまったことは、次のように要約できる。
1.正しいデータと技術で作成されたハザードマップは、相当的確に災害の状況を予測していること。
2.倉敷市は、このマップを全戸配布し、市の広報紙でも通知し、さらにネットで公開・提供していた。すなわち、市役所として通常やるべきこと・できることは全て行っていたこと。
3.「豪雨」について、気象庁はかなり踏み込んだ予報を発表し。事前に警報も発していたこと。
4.にもかかわらず、逃げ遅れた人々が多数にのぼり、犠牲者も出てしまったこと。
 ここから浮かび上がる課題の一つは、住民の方達が折角の優れたハザードマップを活用できなかったのはなぜかということである。「岡山では大きな災害は無い」という意識が強く、ハザードマップの内容を軽視していたという側面も確かにあるかもしれない。だがそれ以前に、そもそも自分たちが住んでいる「平野」や「山裾」「比較的狭い谷」などが、どんな性質(土地条件)をもつ場所なのかという基礎的な知識が欠けていたこと、さらに、そこで異常な大雨が降る、河川が氾濫するなどした場合どのようなことが起きるのか、といった知識も共有されていなかったことがあり、そのためにハザードマップを活用できなかったのだと考えられる。
 ただし、そのことは断じて住民の方達の自己責任などではない。それはこの国で生きて行く上で最も大切な基礎知識であるにも関わらず、学校教育がこの分野にまともに対応してこなかった結果であり、そもそも「被害」はそこから始まっていると考えるべきだからである。
出典
倉敷市 洪水・土砂災害ハザードマップ「真備・船穂地区」(平成29年作成)
http://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/100849/06mabihunao.pdf
国土地理院 平成30年7月豪雨に関する情報[「浸水推定段彩図」
http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H30.taihuu7gou.html
posted by Yorifuji.T at 08:56| Comment(0) | 自然災害

2016年04月21日

熊本地震:黒川第一発電所関連施設の破壊と土砂災害

 熊本地震の土砂災害では、阿蘇大橋直上の事例が大きく扱われているが、他にも大規模な斜面崩壊、土石流が発生している。
 その中で、明らかに性格の異なる「災害」が発生しているのだが、殆ど報じられていない。

 それは、JR豊肥線立野駅の北方の山腹から発生し、西北西から西、そして南西へと弧を描くように崩れた崩壊である。先端部において住宅を巻き込み、被害が出ている。
 この崩壊の性格が他と異なるのは、下に示す地形図と崩壊後の空中写真で明らかなように、崩壊の発生とその激化に「人工構造物」である送水管と貯水施設の破壊が関与している点である。
 この施設は、九州電力の黒川第一発電所の一部で、流量調整用の貯水槽に上流部から水を運ぶ導水管が接続、そして低位にある(狭義の)発電所に水を送る水圧管の出発点となっている施設と思われる。

 地震直後の各社の空撮映像では、この施設が大破して大量の水が激しく流出(と言うより噴出)し、森林や土砂を押し流している様子がとらえられていた。筆者の手元には現在その映像がないが、毎日新聞が直撃を受けた被害者のインタビュー動画を公開している。

熊本地震:「川のように流れてきた」 土砂崩れ現場・南阿蘇
http://mainichi.jp/movie/?id=4849040569001

 その後、水は止まっているが、これは単なる斜面崩壊ではなく、明らかに、施設破壊による「二次災害」であると考えられる。
 「大規模自然災害」ー「発電所施設の破壊」ー「二次災害発生」というこの“災害”は、東京電力福島第一発電所で起きたものと、被害の「質」こそ違うものの共通の構造をもつと考えられる。
 九州電力はどう対処するのだろうか。

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 これらの図版はいずれも、国土交通省国土地理院の「地理院地図」によるものである。
http://maps.gsi.go.jp/#12/32.880740/130.961151/&base=std&ls=std&disp=1&lcd=20160414kumamoto_0420suichokul01&vs=c1j0l0u0f0&d=vl

posted by Yorifuji.T at 05:32| Comment(0) | 自然災害

鬼怒川・常総洪水について(つづき)

 前の記事で述べたことについて、より明快に説明している素晴らしいコメントが毎日新聞に載っているので、以下に紹介する。語っているのは私が最も尊敬する研究者の一人である高橋裕先生である。

そこが聞きたい:鬼怒川決壊の教訓 高橋裕氏
毎日新聞 2015年10月14日 東京朝刊 <一部抜粋>
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 鬼怒川の過去と現在を比べると、水が流れる場所が変わっています。大きな川の堤防が決壊すると、あふれ出た水は昔の流路に沿って流れます。鬼怒川の東側には小貝(こかい)川があり、二つの川は過去に何度も合流と分離を繰り返し、堤防が決壊したこともあります。今回の水害の浸水域は両河川の間に広がりました。あふれた水は二つの川の昔の流路を通り、非常に広がりやすい状況だったのではないでしょうか。川の過去の変遷を加味して水害対策を考えることが重要です。
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 地球温暖化や気候変動で雨の降り方が変化し、これまで大降りがなかった地域でも大量の雨が一気に降る傾向があります。鬼怒川の水害や大きな被害を出した昨年8月の広島市の土砂災害も、こうした雨が原因です。同じような災害は今後、日本のどこでも起こると考えるべきです。そもそも日本は「水害大国」です。残念ながら、日本には戦後、破堤していない川はありません。元々、水害に弱い地域を都市開発してしまった場所も多く、川に近く、人口が多い地域は危険なのです。
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 政府は東日本大震災を経験し、国土強靱(きょうじん)化をうたっていますが、災害をハード整備の予算獲得手段にしてはいけません。国や自治体は、川が過去にどの程度の水害を起こしたのか、戦後70年間にどのような災害が起きたのかを住民に周知することが必要です。そのうえで有事に避難行動を促すソフト面の整備に力を入れるべきです。住民は、自分が住む地域の川で起きた災害を知っておくことによって、どこが危険なのか、どこが安全なのかを理解できるでしょう。そのためにも、義務教育段階から身近な川の水害史を学ぶ機会を増やし、「水害はいつでも起きる」ということを国民の常識にすることが求められます。
[聞き手・鳥井真平記者]
http://mainichi.jp/shimen/news/20151014ddm004070010000c.html

本稿は、2015年10月26日に別のブログに書いた記事の転載です。
posted by Yorifuji.T at 05:02| Comment(0) | 自然災害