2016年04月21日

熊本地震:黒川第一発電所関連施設の破壊と土砂災害

 熊本地震の土砂災害では、阿蘇大橋直上の事例が大きく扱われているが、他にも大規模な斜面崩壊、土石流が発生している。
 その中で、明らかに性格の異なる「災害」が発生しているのだが、殆ど報じられていない。

 それは、JR豊肥線立野駅の北方の山腹から発生し、西北西から西、そして南西へと弧を描くように崩れた崩壊である。先端部において住宅を巻き込み、被害が出ている。
 この崩壊の性格が他と異なるのは、下に示す地形図と崩壊後の空中写真で明らかなように、崩壊の発生とその激化に「人工構造物」である送水管と貯水施設の破壊が関与している点である。
 この施設は、九州電力の黒川第一発電所の一部で、流量調整用の貯水槽に上流部から水を運ぶ導水管が接続、そして低位にある(狭義の)発電所に水を送る水圧管の出発点となっている施設と思われる。

 地震直後の各社の空撮映像では、この施設が大破して大量の水が激しく流出(と言うより噴出)し、森林や土砂を押し流している様子がとらえられていた。筆者の手元には現在その映像がないが、毎日新聞が直撃を受けた被害者のインタビュー動画を公開している。

熊本地震:「川のように流れてきた」 土砂崩れ現場・南阿蘇
http://mainichi.jp/movie/?id=4849040569001

 その後、水は止まっているが、これは単なる斜面崩壊ではなく、明らかに、施設破壊による「二次災害」であると考えられる。
 「大規模自然災害」ー「発電所施設の破壊」ー「二次災害発生」というこの“災害”は、東京電力福島第一発電所で起きたものと、被害の「質」こそ違うものの共通の構造をもつと考えられる。
 九州電力はどう対処するのだろうか。

tateno02.png

tateno01.png

 これらの図版はいずれも、国土交通省国土地理院の「地理院地図」によるものである。
http://maps.gsi.go.jp/#12/32.880740/130.961151/&base=std&ls=std&disp=1&lcd=20160414kumamoto_0420suichokul01&vs=c1j0l0u0f0&d=vl

posted by Yorifuji.T at 05:32| Comment(0) | 自然災害

鬼怒川・常総洪水について(つづき)

 前の記事で述べたことについて、より明快に説明している素晴らしいコメントが毎日新聞に載っているので、以下に紹介する。語っているのは私が最も尊敬する研究者の一人である高橋裕先生である。

そこが聞きたい:鬼怒川決壊の教訓 高橋裕氏
毎日新聞 2015年10月14日 東京朝刊 <一部抜粋>
・・・・・・
 鬼怒川の過去と現在を比べると、水が流れる場所が変わっています。大きな川の堤防が決壊すると、あふれ出た水は昔の流路に沿って流れます。鬼怒川の東側には小貝(こかい)川があり、二つの川は過去に何度も合流と分離を繰り返し、堤防が決壊したこともあります。今回の水害の浸水域は両河川の間に広がりました。あふれた水は二つの川の昔の流路を通り、非常に広がりやすい状況だったのではないでしょうか。川の過去の変遷を加味して水害対策を考えることが重要です。
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 地球温暖化や気候変動で雨の降り方が変化し、これまで大降りがなかった地域でも大量の雨が一気に降る傾向があります。鬼怒川の水害や大きな被害を出した昨年8月の広島市の土砂災害も、こうした雨が原因です。同じような災害は今後、日本のどこでも起こると考えるべきです。そもそも日本は「水害大国」です。残念ながら、日本には戦後、破堤していない川はありません。元々、水害に弱い地域を都市開発してしまった場所も多く、川に近く、人口が多い地域は危険なのです。
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 政府は東日本大震災を経験し、国土強靱(きょうじん)化をうたっていますが、災害をハード整備の予算獲得手段にしてはいけません。国や自治体は、川が過去にどの程度の水害を起こしたのか、戦後70年間にどのような災害が起きたのかを住民に周知することが必要です。そのうえで有事に避難行動を促すソフト面の整備に力を入れるべきです。住民は、自分が住む地域の川で起きた災害を知っておくことによって、どこが危険なのか、どこが安全なのかを理解できるでしょう。そのためにも、義務教育段階から身近な川の水害史を学ぶ機会を増やし、「水害はいつでも起きる」ということを国民の常識にすることが求められます。
[聞き手・鳥井真平記者]
http://mainichi.jp/shimen/news/20151014ddm004070010000c.html

本稿は、2015年10月26日に別のブログに書いた記事の転載です。
posted by Yorifuji.T at 05:02| Comment(0) | 自然災害

鬼怒川・常総洪水について

 関東・東北豪雨によって鬼怒川の堤防が決壊、茨城県常総市で発生した洪水氾濫から1カ月余りが経過した。

 以下に二つの図を示す。空中写真は、破堤直後の常総市付近である。地図は同じ場所で、破堤箇所に◯印をつけたものである。
 氾濫した水の拡がりが、地図上の薄緑色の「谷底平野」*1 とほぼ一致すること、特に青い横縞で描かれた「旧河道」*2 の位置で強く流れた様子を示していることが判る。
 *1.川沿いの低く平らな土地を示す専門用語
 *2.かつて川が(一定期間)流れていた跡を指す専門用語
<図をクリックすると拡大表示します>

jousou_fig1.png jousou_fig2.png

 この地図は国土交通省国土地理院という国の機関が作成・公開している「治水地形分類図」というものである。
 図で判るように、治水地形分類図は "溢れてしまった" 後の洪水の動きを予測するのに役立つ情報を伝えている。ここで、この地図に関する詳しい説明をするのは困難なので、国土地理院のサイトへのリンクを貼るに止める。
http://www.gsi.go.jp/bousaichiri/fc_index.html

 国が(国費で)作成・公開している「地図」には、他にも多くの種類、膨大な図面があるのだが、決して活用されているとは言えないのが現状である。

 メディアでは、直後から堤防の整備や維持管理、避難指示のあり方等についての批判や議論が展開されたが、水害の起きた(洪水流が拡散し滞留した) "地域" に元々潜在している「危険性」についての真剣な議論はあまり多くなかったように思う。
 背景には、第一に、現実に大きな被害を受けて苦しんでいる被災者をさらに傷つけることになる可能性、第二に、この議論が一つ間違うと「そんなところに住むのが間違い」といった、安直で差別的な "自己責任論" を誘発しかねないこと、といったことへの警戒と抑制があったのだと思う。
 しかしながら、今この国は明らかな "気候変動" に直面している。今後の豪雨や台風、竜巻といった気象災害の多くが、「史上最悪」とか「未曾有の」といったいわば「想定外」のものとなる可能性が非常に高くなっているのである。例えば、1時間100ミリなどという雨の降りかたは、30年前であれば冗談とか空想に近いレベルだったものが、今では耳慣れたものとなってしまっている。
 そうなれば、経験的な数値をもとに作られた「施設」や「対策」では対応しきれない状況が、従来より頻繁に出てくることが当然予想される。大規模気象災害は、大地震のような衝撃は無いものの、ほぼ毎年日本のどこかで発生する可能性があるのである。
 東日本大震災(3.11)以降、地震対策の中心が「予知」から「減災」「避難対策」にシフトしたように、大規模気象災害、特に洪水についても、堤防の "高さ" ばかり問題にするのでなく、 "崩れ" たり "溢れ" たりした後の状況やその対応について、もっと真剣に準備しておくことが大切になると考える。
 実は、洪水氾濫の危険性については "古い地名" がよく伝えていることが知られている。今回の被災地域は常総市の東部なのだが、ここは合併前は「水海道市」という、まさに河川の乱流を暗示させる地名だったのである。

本稿は2015年10月26日に他のブログに書いたものです。このブログの開設にともなって転載しました。
posted by Yorifuji.T at 04:41| Comment(0) | 自然災害